探偵日記 12月17日月曜日曇り
週末から風邪気味で体調が優れない。土曜日は、期日前投票に行ったが、ほとんどベッドで過ごした。翌16日、日曜日、今年最後の「サンサン会ゴルフコンペ」朝4時に起きて、タイちゃんの散歩を済ませて迎えの車を待つ。休養たっぷりなのに体が動かない。ひそかに優勝を狙ったが着外(泣)阿佐ヶ谷に帰ってパーティーのあと、久しぶりに(天国に一番近いスナック)「ほろよい」に行き、下手な歌を歌って11時半帰宅。本格的に風を引いたようだ。
朝6時、携帯のアラームが鳴る。何だろうと思って起きてみると起床の時間。飛び起きてタイちゃんの散歩に出る。8時、ご飯を美味しく食べた後、ベッドにもぐりこんだが、喉が痛く高熱を発している。(休みたいけど休めない)今日は、17時に大事な仕事がある。また、こんな日に限って、何時もはぴりっとも鳴らない携帯が鳴って次々に用事が出来る。11時前、ふらふらっと家を出て事務所へ。------
あの橋から その18
二人の間に沈黙が続いた。チラッと探偵を窺うと、特に不機嫌そうでもない顔をしている。馬鹿といわれて末子も少々面白くなかったが、探偵もそんな話は聞きたくなかったのだろう。「絶望は愚か者の結論なり」って言葉を知っているでしょう。昔、といっても奥さんの年齢なら聞いたことがあるはずですが、ラジオの人生相談の番組で、回答者の人が必ず冒頭で言ってた台詞です。死ぬという選択をする時は、多少鬱傾向になっているんでしょうが、無責任というか、損な人だと思います。夫の浮気ぐらいでいちいち死んでいたなら、世間では年間何万人の人が死ななきゃあならない。例えばこの僕なんか3百回ぐらい死んでる。いやいや、僕が誰かに浮気をされたっていうことではありませんよ。長く生きているとそれだけ苦労があるっていう話です。
さらに、「僕はこの仕事をしていて、今まで4人の依頼人に死なれています。」と言って、そのうちの一件について説明してくれた。その女性は、最初、自分の車のハンドルに出刃包丁をくくりつけ、思い切りアクセルを踏んでコンクリートの壁に激突したという。ところが、胸に大きな傷を負ったものの死ねなかった。探偵は「二度と死ぬなんてことは考えない」約束をさせて、依頼を引き受けたが、調査結果に絶望し、今度は、富士山の雪の中で睡眠薬を飲んで自殺したらしい。末子は聞いていて、(私の自殺未遂は、最初から未遂ありきだった)ように思えた。その主婦には男の子が一人いた。私には二人の子がある。探偵の言う(無責任)という言葉が胸を刺した。
ご主人が今月末に家を出るって言ってるんですね。確かに、ご主人は出てゆくでしょう。出たいものは出て行ってもらえばいいでしょう。ご主人は悪性の感冒に罹って高熱を出しているんです。いわば、正常な判断が出来ない状態なんです。だから、奥さんがいくらじたばたしても効果は無いでしょう。狂っているんですから。一緒になって狂っていたら二人の子供はどうなるんですか?父親は(お父さんはお母さんより好きな人が出来た。だから、君たちのお父さんを辞める)なんて馬鹿なことを言って出てゆくんでしょう。その馬鹿な男のあとを追ってお母さんまで居なくなったら。って、考えないんですか。
(じゃあどうしたらいいんですか)末子は何となく探偵の術中に嵌った感じがしたがついそう言っていた。すでに1時間ほど経っている。
奥さんは、費用のことがご心配のようですが、僕は無駄なことはしません。ただ、いざという時、例えば、法廷で争うよな事態になった時に、奥さんの武器になるような資料を持って置いて下さい。それには、まず、ご主人と相手女性の不法行為を証明する。これは、不倫調査の場合は特に、ラブホテルを利用してくれれば動かぬ証拠になります。しかし、ご主人は女性の家に入り浸っているんですよね。その場合、数日間に亘り、ご主人が彼女の部屋を出入りする場面を数回確認する必要があります。次に、相手女性の身元を知る必要があります。これは、奥さんが相手女性に損害賠償を求める際に必要です。
(いえ、私は相手の女性に慰謝料の請求をする気も、夫を相手に訴訟を起こすつもりもありません。ただ、本当のことが知りたいだけなんです。そして、出来れば、その女性に会いたいんです。)「女性に会ってどうするの?夫を返してくれって言うつもり?」探偵はズバッと言い末子の顔を覗き込むような仕草をした。末子は返答に困って下を向いて黙った。「ああそうだK先生は何て言ってましたか。このことで相談したんでしょう」探偵の質問に今度は応えることが出来た。(先生は、夫が浮気している証拠は有るかって言ってました。それと、奥さんが承知しなくても離婚は可能とも)ーーー
昔は、浮気をしている夫からの離婚調停など、裁判所は門前払いだった。しかし、最近は調停も行うし、本裁判になり数年もすれば離婚の判決が出ることがある。裁判官らの意識も様変わりし、数年間の別居は(夫婦の形骸化)を指摘し、この養育費や、妻えの慰謝料等誠実に対応すれば、ある程度のペナルティーを課したうえで、「離婚」の判決をする。例えば、不倫をした夫が嘘八百を言っても、整合性があり、虚偽を覆せなければ負けてしまうのである。K弁護士は端的に言ったようだ。
そのあと、では調査をしようということになったが、費用のことで頓挫した。「まあ良くお考えになって決めてください。そんなに時間も無いでしょうけど、奥さんが納得した上で依頼してください。」と言う探偵の言葉で、この日の面談は終わった。ーーーーーーーーー