あの橋から その11

探偵日記 12月06日木曜日晴れ

今日は11時に事務所に依頼人が来るというので、朝食を済ませた後、早々と仕度をし、出勤した。すると、我が探偵事務所のホームページを見たという女性から電話がかかり、「ある人物の身辺調査を依頼したい」との由。13時の約束をする。

11時、予定の時間ぴったりに玄関のチャイムが鳴る。ドアを開け50代のご婦人が入ってくる。応接室に招き入れ早速本題に入る。ご他聞に漏れず(夫の浮気)あ~ァ

打ち合わせが済み、息つく暇も無く13時の依頼人がやってきた。今度は40代の女性二人。依頼内容が当事務所にそぐわず早々に帰っていただく。------



あの橋から その11

今度も、睡眠薬を飲んで決行する。末子自身、これで死ねるとは思っていない。雅之に対する抗議の意味合いが強く、そんな自分を見て、気持ちを変えてくれれば。という淡い期待があった。ただ、勿論、死に至っても良い。という覚悟は出来ていた。痛いだろうな、とか、苦しいのかな、という躊躇いはあったが、末子は思い切って、左手の手首に浮き出ている血管を切り裂いた。ピュッとほとばしり出る血がベッドを汚した。

その時、玄関のドアが開く音がして、塾から翔が帰って来た。翔は、あの日以来、母親の様子を注意して見ていた。(大好きなお母さんが苦しんでいる。)翔の心も不安と母親えの思いではちきれんばかりになっていた。今まで、声を荒げて怒られた記憶は無い。良くないことをしたときは、怖い顔をして叱られたが、その何百倍も優しくしてくれた。或ときは、友達みたいな母、小動物が好きで、はなちゃんに話しかける時も、自分たち子供と会話するように優しく丁寧に言葉をかける。翔はどうかするとそんなはなちゃんに嫉妬すら覚えることもあった。

帰宅した翔は、普段ならば、さっさと自分の部屋に入って、パジャマに着替えて夕飯を食べる習慣だったが、この日はまずダイニングを覗き、母親がいないので、母の寝室の声をかけてみた。返事は無い。(留守かな?)と、思ったが何だか胸騒ぎがして、ドアをそっと開けてみた。真っ暗な部屋のベッドに左手を胸に当ててうずくまっている母がいた。廊下から差し込む光に浮かび上がったのは、血の気の無い顔で目を閉じて、唇を噛締め苦痛を堪えた母親の姿。驚くというより、いいようの無い悲しみが翔を襲った。(お母さん)と叫んで、肩に手をかけようとして初めて、ベッドに広がる朱色の鮮血を見て、ようやく事態を判断した翔は、携帯で110番にかけ、つづけて、119番をプッシュする。自宅の住所を告げ、最後に、父親の携帯に電話をして、(お父さん。お母さんが大変だすぐ帰って来て)と言い、救急車を待った。

もうすっかり眠っていた茜も、兄の声で異変を感じたのか起きてきた。そして、ベッドで血にまみれた母親を見て、両手で顔を覆い泣き出してしまった。-----