あの橋から その16

探偵日記 12月13日木曜日晴れ

昨日は(けやき会)というコンペの日、川越カントリーで開催された。スコアは相変わらず低調だったが、楽しくプレー出来た。というのも、これで最後にしようと思っているからで、勝っても負けても和気藹々と終えたいと考えた。その後、阿佐ヶ谷に帰って、メンバーの一人がやっているおすし屋さんで忘年会、このコンペは301回続いている。本当に良く続いたものだと思う。しかし、次第に欠けて今は7人、かろうじてコンペの態をなしているが、僕が抜けると崩壊の危機である。皆と楽しく酒を酌み交わしながらちょっぴり(悪いな)という気になった。



あの橋から その16

始めましての挨拶のあと、「ご主人の件ですか」と言われ、(ハイそうです)と応える。「電話ではなんですからご都合のいい日にどこかでお会いしましょうか」少々軽い感じで探偵は言う。末子は躊躇した。福田と名乗る探偵と会うことで、夫の素行調査を依頼することになろうが、調査費用はどうしよう。それと、会うだけでもお金が要るのだろうか?主婦感覚が頭を掠める。(あの~お会いしてご相談するのにいくらかかりますか)探偵は「無料です」と、短く応え、そのあと、「僕と会っても調査を依頼する必要はありません。また、お話を聞いてこちらのほうからお断わりする場合もあります。今の貴女は、まず詳しい状況を探偵の僕に話し、そのうえで、今後の方針を決める時では有りませんか。お一人でいくら考え思い悩んでも出口が見つからないものですよ」

(出口が見つからない)このひと言で、末子は、この探偵に会ってみようと決心した。声のトーンは軽薄な感じだが人としての優しさが伝わってきた。(それでは宜しくお願い致します)と応え、明日が土曜日であることを思い出し、(あの~明日は土曜日ですが構いませんか、私は休日なので好都合ですが)と言うと、探偵は笑いを含んだ声で、「探偵には土曜日も日曜日もありません。じゃあ明日の午後1時頃は如何でしょう。場所はお任せいたします。」ということで、末子は、自宅に近い駅の名前を告げ、約束が成立した。その夜、珍しく早く帰って来た夫の顔を正視出来ず早々とベッドにもぐりこんだ。

何かいけないことをしようとしているんじゃあないか、はたして、あの探偵の福田という人は良い人だろうか。などと考えているうち、いつの間にか眠ってしまった。

翌日は予報が当り、冷たい雨が降っていた。車を駅近くのファミレスに無断駐車し、約束の喫茶店に向かった。その喫茶店は探偵が指定した。------