あの橋から その13

探偵日記 12月08日土曜日晴れ

今日は珍しく全員現場に出ている。僕も午後に所用があり正午事務所に着く。陽射しが暖かくいい日である。明日(ゴルフ)は寒くなりそうで、本当に間の悪いことである。昨夜は、今週2度目の銀座だった。驚いたことに、何時もは平日でも一杯の「○久」(七丁目のお寿司屋さん)が、がらがら、ウン?と思った。金曜日の7時、普段なら予約しても入れないほどの店が、熱燗を飲みながら何だか寒くなった。午前1時帰宅。朝は6時に起床。タイと散歩に出る。----



あの橋から その13

糸ちゃんは、末子の話を聞いて、うーんと唸った。「あんなに優しそうなご主人が」と絶句している。糸ちゃんも薄々感じていたようだったが、自分のほうから言い出せず陰ながら心配していたと言う。実は彼女も末子と同じ境遇にあった。ただ、夫は家を出るとか離婚するなんて気は一切無く、平然と深夜帰宅する。女性と一緒のところを妻の糸ちゃんや、子供たちに目撃されてもお構いなし、糸ちゃんのほうは何時でも離婚する覚悟は出来ており、今では、夫の行動に全く関心がなくなった。らしい。末子は、かって、糸ちゃんからそんな話を聞かされ、私ならとても我慢できないだろうな。と思っていただけに、立場を同じくした今、心底よねちゃんが羨ましかった。

糸ちゃんは、「すえちゃん、2度とあんなことはしないって約束してね。それなら私はどんなことでも協力するから」と言ってくれ、とりあえず、「雅之さんを尾行してみましょう」と提案してくれた。末子も、会社から帰るとはなこの散歩を済ませ、そそくさと自転車で出かける雅之を、自分で追跡してみようかと思っていたので、(じゃあそうしよう)ということに決まった。某日夜、物陰に隠れていた糸ちゃんは、自転車の乗って走り去る雅之の尾行を開始した。何しろお互いに熟知している間柄である。いかに暗闇とはいえ、雅之が振り返ったらアウトである。少し距離を置き、しかし猛スピードで追尾する。寒い夜だったが汗ばんできた。

しかし、所詮素人のやることで、10分も走っただろうか、住宅街を抜け、鬱蒼とした木々に覆われた小川に沿って走る雅之を、あの橋の辺りで見失ってしまった。その後も、よ糸ちゃんは、2度、3度と挑戦してくれたが、雅之が訪れるマンションを発見できなかった。ただ、おおよその検討はついた。あの橋を渡って少し走ると数棟の高層マンションがある。(多分その辺りよ)と言われ、今度は末子が深夜マンションを1軒1軒回って、雅之の自転車を探すことにした。

この日、糸ちゃんと近所のファミレスで会った末子は(駄目だわ)と、成果が上がらなかったことを報告した。(どうしよう)10最年上の糸ちゃんは、言いだしっぺの責任を感じ、ほとほと困った顔で末子を見る。お互いこれといった名案も浮かばないまま、しょんぼりと別れた。

しかし末子は、こうした行為をしたことで、今までとは違った心情になっている自分気づいた。何か不思議な感情である。(目的を発見した)のかも知れない。これまでは、脈絡無く思い悩み、思考全体が悲観的なほうに流されたが、当面、具体的な目標を得たことで、その他のことも前向きに捉える事が出来た。(そうだ)末子は何かを思いつき、翌日、区役所に電話をかけ、(弁護士さんの無料相談は何曜日でしょうか)と、問い合わせ、翌週の火曜日、勤務先を休んで区役所を訪れた。------