マルヒを追っている調査員から「世田谷の豪邸に入りました」との報告を受けて、僕はまた悩んでしまった。えっ、じゃあ真理子の言う「貴方よりうんとお金持ちよ」と依頼人に言ったことは本当だったのか?そんなはずはないのに。と思っていたらまた調査員か連絡が来た。
「所長、マルヒが入った家は山本という表札が出ています。」止めを刺された。一方、マルヒこと山本が朝帰りしたアパートの電気やガスの使用者は「山本」で間違いなかった。これでマルヒの名前が本人の言うとおり山本であることになる。その山本は、世田谷の山本家を1時間ほどして出て、再び都心に向かっているという。
その後のマルヒは、特別何処に立ち寄ることも無く、誰とも会わず、或時は公園横の道路に、また或時は、大型スーパーの駐車場に車を停め、車内で、途中のコンビニで購入した数冊の漫画雑誌を読みふけっているらしい。僕が(飯はどうしたんだ)と聞くと、調査員は、コンビニで買った弁当を食べてます。と言う。そして、午後5時半、真理子のいる花ひろばに戻った。
マルヒは、花ひろばで真理子を手伝い、8時に閉店するとやはり近くのレストランに行き、食事を済ませた後、郊外の真新しいシティホテルに真理子を伴って入った。僕は、調査員らに、(昨日のラブホテルと違い夜中に出てくることは無いだろうから、引き上げて明日の7時ぐらいから張り込んでくれ)と指示し、別の調査員に、マルヒが入ったアパートの住所から本人の身元調査をやるように言って、この日の調査を終えた。
翌日、依頼人に連絡をして、簡単に中間報告を行い、特別な指示があるかどうか聞いてみた。依頼人は、あれから真理子と会い山本に関する情報を得ており、「とにかくそこそこの会社の代表であることは間違いないようです。購入予定のマンションの名前も聞きました。俳優の渡辺健がイメージキャラクターになっているMというマンションです。」と言っている。そのマンションなら僕も名前ぐらい知っていた。最近テレビで良くコマーシャルをしている超高級マンションで、一番安い部屋でも1億円以上する。人は見かけによらないから、マルヒももしかしたらかなりの資産家か。と思ったが、すぐに(絶対にそんなことは無い)と否定した。------