しかし、そんな調査をして、付録のような事実関係が明らかとなっても依頼人の利益に代わるようなものではなかった。僕も何となく達成感が感じられず、(もうやめましょうよ)というのだが、案外頑固な人で容易にうんと言わない。世の中には調査を依頼したくてもお金が無くて、探偵社のドアを叩けない人が山ほど居る。僕はむしろ、そんな依頼人のほうが好きで、(できる限りのことをしてあげたい)と思うのだが、タイミング良くそんな依頼人とはめったに会わない。
依頼人とそんなやり取りをしている最中、依頼人が切羽詰ったような声で「至急会いたい」と言ってきた。勿論僕に異存があろうはずも無くいつも会う喫茶店を告げて事務所を飛び出した。依頼人は僕と会うなり「これ読んで」といって、一通の封書を差し出した。表も裏もワープロ打ちしたものだが、ご丁寧に書体を手書きしたかのようなものに変えている。それがかえって不気味に思えた。依頼人は「この手紙福田さんが出したのかと思った」などと言っている。
中の文章を読んでみる。なかなか達者な文章で、(慣れているな)と感じた。内容をかいつまんで言うと、(貴女、依頼人のこと、が頼んで、前田のことをあれこれ調べたでしょう)と書いてあり、(もうやめましょう。続けるなら依頼した事実を含め色んなことを公表するよ)というものだった。更に、(自分は東京で探偵社を営んでいる者です)とも書いてあった。明らかに脅しである。ただ、詳細に亘る部分はぼかしてあり、僕は、全体に推測の域を出ていないな。と思った。一方、依頼人はというと青ざめた顔で震えている。「お金を払って済ませられないかしら」などと言う。金持ち喧嘩せず。の感覚だろう。
(何でこんな奴に金を払うんですか)僕は、依頼人を少し睨んで言う。まあ、最終的にお金で解決することがあるかもしれませんが、ちょっとこいつを調べてみましょう。相手は、明らかにけんかを売ってきているんですから、まず敵を知っておきましょう。と言って、(この件については調査料は頂きませんからね)とことわり、この日は別れた。依頼人はなおも不安そうだったが、かまわずにサヨナラした。
翌日から、手紙の主に対する調査を開始した。何処の探偵か知らないけれど、もし、僕のことを承知で依頼人に圧力をかけているのなら許さない。久しぶりに血が騒いだ。
手紙の差出人。Yとしておこう。Yの住所は新宿区百人町○×番地。Yの表札がかかっているが、事務所名など無い戸建の家だった。数日間張り込みを行い家族構成などを把握しそれぞれの顔写真も得た。-------
8月8日水曜日、前日に比べ4~5度気温が低くさわやかな朝を迎えた。11時に、川崎の顧問先に出向く。30分で打ち合わせが終わり久しぶりに川崎の町を散策。駅ビルでランチを済ませ、事務所に戻った。麻雀に行きたいけれど明日報告の書類作成に追われる。ただいま16時40分。17時までに終わらせて・・・・・・・・・・(笑)