クリニック 7

出水は当時カリスマ美容整形科医として、たびたびマスコミにも登場していた。後半には、秘書兼アシスタントの優秀な看護婦として、前田も加わり出水に寄り添った姿が映像になり流された。女優顔負けの美人である。テレビ局も重宝し、アナウンサーも前だにマイクを向ける回数が多くなった感があった。こんなテレビを見るのは辛いだろうな。と思っていたとき、依頼人が前述のような提案をしてきた。

確かに、出水のしようとしている事は明らかに法律違反である。いかに専門バカといえども「重婚」が出来ないことぐらい分かっているだろう。このあと、僕の調査というか特殊な工作により、前田の親兄弟や実家周辺の人たちは、(恵子ちゃんが騙されている)ことを知って大騒ぎになった。勿論、マルヒは出水に騙されているわけではない。そのことは、マルヒ自身、身をもって了解していたはずである。しかし、マルヒの両親は気が気ではなく遂に二人して上京してきた。

出水は、両親が恐縮して辞退するのも聞かず帝国ホテルのスイートをリザーブ。やはり銀座の高級料理店に部屋を取り「自分に妻子のいることを言わず申し訳ない。ただ、妻の離婚はすでに決まったようなもので近々成立するので、恵子さんとのことは任せてください。」と説明した。

ところが、両親は別の言い方で娘のことを案じた。分別のある年齢の両親は、(院長先生はあんなことを言っているが、そんな簡単に離婚が決まるわけは無い)と思いこう言った。「院長先生、恵子は正式な奥さんでなくても結構です。妾でも2号でも構いませんから一生お願い致します。」僕はこれを聞いて(正解)だと思った。さすがに無駄に年をとっていない。田舎の老夫婦と思っていたが、極めて常識的な人物たちであった。出水はこのことを聞いて、どのように解釈したか分からないが、上機嫌で帰っていったという。ーーーーーーーー

今日は土曜日だが家でじっとしていられない性分の僕は、お昼前に家を出て事務所に来た。

ブログの更新に加え、月曜日に報告しなければならない件がありまとめておかなければならない。或る会社の依頼で、債権回収のための調査だった。マルヒは女性、裁判所の呼び出しにも応じず1千万円近い債務が確定したが、行方をくらませて逃れようとしていた。しかし、我が探偵事務所が引き受けたところで万事休す。とあいなり、隠遁先で優雅に暮らすマルヒを発見。写真つきの報告書が明後日依頼人の手に渡る。

このような場合、下手に逃げ隠れすると延滞利息が加算され、えっ、というような金額を請求されかねない。人生何事も「誠意」をもって生きることが肝要である。