クリニック 1

朝のニュースで、今日の東京の最高気温31度。になっていた。昨夜は寝つきが悪く02時くらいまでベッドで悶々とした。僕の悪い癖で愚にもつかない事をついつい考えてしまう。まあ、或ときは小説の一章のこともあれば、仕事上のアイデアだったりする。しかし、昨日はほとんど(ため)にならないことばかりで、我ながら嫌に成った。

寝不足なのに、朝ごはんは美味しく頂けた。「ごはんですよ」と起こされ、寝ぼけたままでフラフラしながらテーブルについてもしっかり食べれる。逆に、先日のように、検査のために朝食を抜くと、とたんに元気が無くなり体に力が入らない。知人の弁護士で、朝食を抜く健康法を実践していて、「いいよ」と言って僕にも勧めるが、僕には絶対出来ない相談である。

今日は、10時半に依頼人が来所の予定。貧乏探偵事務所としては珍しい日である。

余談だが、お中元は7月15日までにしなければならないらしく、事務所で、「行ける所は、ご挨拶かたがた行って下さい」というものだから、ご自宅にお送りしている先生を除き、この間、20数箇所の弁護士事務所を訪問した。その中のお一人の先生と雑談している時、今から10年ほど前にご紹介頂いた案件を思い出し、(そのごどうなりましかね~)と聞くと、先生は、「ああ、あのクリニックは潰れたよ。でもご家族は今までの家にいるようだね」と言った。

僕は、当時大流行だった美容整形クリニックの経営者のドクターに関する素行調査を懐かしく思い出した。



クリニック 1

「素行調査をお願いしたいんだけどお宅の料金表をFAXしてくれる」といって、新橋の弁護士事務所から電話があった。早速、事務のものが送ると、折り返すように先生から電話がかかり、「明日午後1時、事務所に来てくれ」との由。初めての弁護士なので、弁護士大観を見て予備知識を得た上で、当日、僕がその弁護士事務所を訪問した。個人事務所で、秘書が二人居た。先生は40代後半、九州の出身でなかなかのイケメンである。通された応接室にはすでに依頼人の婦人も来ており、まず先生に、つづいて依頼人にも名刺を差し上げ着席した。

依頼内容は、弁護士が最初に言ってきたように、依頼人の夫の素行調査(浮気の調査)である。依頼人の夫は51歳。依頼人は6歳下というから45歳。やや緊張した面持ちで弁護士と僕のやり取りを聞いている。途中お子さんから電話がかかり、諭すように何か言っている。そんな様子から、この人は、結婚前は看護婦だったのかな。と感じた。

医者は、結婚相手に医者の家庭の子女を選ぶ傾向にある。それもある程度理解できる。生まれ育った家庭環境が似通っているほうがお互いの理解が安易であろうし、本人よりも両親や親族の強い希望もある。或とき、関西方面から問い合わせがあり、実際に、中年のご夫婦が調査の依頼に上京してきた。依頼内容は(東京の病院に勤務している息子の結婚相手を調べてくれ)というものだったが、夫婦揃って、「結婚を絶対に認めたくない」と言う。その理由として、「私たち夫婦の家系は全員医者であり、息子の嫁もそういう家庭のお嬢さんでなければ親戚に顔向けできない」だった。その息子の相手は、勤務先の病院で働く看護婦である。息子は、何が何でも結婚したい。と言っている。その息子が結婚を諦めるような報告書が欲しいと言う。随分乱暴な発想であるが、僕は十分理解できた。しかし、調査会社は報告する内容を偽ったり、捏造することは絶対無い。このことを承知してもらった上で受件した。

本題に戻る。依頼人の夫は、有名私大の医学部を出て、付属の病院に勤務していたがバブルの頃独立。銀座一丁目で美容整形クリニックを開業した。クリニックは大繁盛し湯水のようにお金が入ってくる。夫は子煩悩で、家庭を大切にして、年に数回行く家族旅行は決まって海外であった。ご他聞に漏れず(脱税)に励み、自宅の金庫には数億円があり、時々、銀行に持って行き定期にするのだが、妻である依頼人が担当した。(銀行に行く時は化粧をせずなるべくみすぼらしい服装で)夫は妻に厳命した。-----