クリニック 3

昨日は最高気温36度の中、埼玉県でゴルフ。15,000歩あるいた。相変わらずパットの調子が悪く38パット。スコアメイクにならない。29,30とI弁護士主催で、恒例の合宿ゴルフ。山梨県の小淵沢だから少しは涼しいかも。7日間は酒もゴルフもダメ。と言われたが守れない。僕は比較的医者の言うことを聞くほうだが、今回はなぜか逆らっている。31日に結果を聞くのが怖い。K病院の主治医はTという恐そうな女医である。さて、何と言われるか?

それはそうと、その後、あのクリニックの夫婦はどうなったか。



クリニック 3

そんな日々が続いた或る日。夫の聡が珍しく早く帰ってきた。依頼人は、少々慌てたが「食事は家でなさいますか」と聞くと「食べる」と、機嫌よく言うので、自信の一品で、夫の好物を、腕によりをかけ作り子供たちを交えての晩餐となった。勿論子供たちも大喜びで、この時とばかりに父親に甘えている。そんな光景を見ながら依頼人もまた一とき至福を味わった。

ところが、食事が終わり後片付けをしている時、居間にいる夫が、二人の子の名前を呼び「お話があるからちょっとそこに座りなさい」と言う声が聞こえた。何だろうと訝しく思いながら聞き耳を立てていたら断片的に「お父さんをやめる」とか、「居なくなる」とか意味不明な言葉が聞こえた。子供たちはというと、シンとして何も言わずに聞いている。

間もなくすると、子供たちはそれぞれの部屋に入り夫だけがテレビを見ている。依頼人は、先ほど耳にした夫の言葉が気になり、恐る恐る夫の横に座って「ねえ貴方子供たちに何て言ってたの」と聞いてみた。夫はこともなげにこう応えた。「うん、僕は11月一杯でこの家を出ることにした。それを子供たちに伝えたのだ」と言う。

依頼人は、最初僕が想像したように元看護婦だった。夫の聡と同じ大学病院で勤務している時見染められ、夫側の親族や、周囲の猛反対の果てに結婚した経緯がある。所謂、側女から正室になおったもので、ちょっと理解しがたいけれど、夫の言葉には一切逆らえない弱みのようなものが有った。したがって、夫の言う、この家を出る。とか、子供たちに対し、もう、君たちのお父さんをやめる。ことに面と向かって反論できない有様だった。

後になって、依頼人に聞いたことがある。(だって、奥さんは歴とした妻ですよ。そんな理不尽なことをただ黙って聞くなんておかしいんじゃあないですか)すると依頼人は、「医者は私たち看護婦を一人前の女性とは見てないのよ。完全に力関係では太刀打ちできないの」と淋しげに言っていた。そのあと、「だって私も後妻だし」と付け加えた。聡は、最初、親の勧めで女医と結婚したが、性格の不一致で離婚し、同時進行で付き合っていた依頼人と再婚したのだという。すぐに子供が出来たのも大きく作用したらしい。

こうしたことがあって、弁護士に相談した結果、将来のために証拠を握っておきましょう。ということで、我が貧乏探偵事務所にお鉢が回ってきたらしい。調査はあっけなく終了した。子供たちに宣言し、妻も観念した。と、勝手に思い込んだ夫はまったく無警戒に行動し、毎日のように美人婦長のマンションに通い、数日間の休暇をとっては小旅行に出かけた。

まだ家を出る前のこと。尾行中の調査員からの報告で、(今、マルヒはタクシーで首都高の羽田線に入りました)数分後、(所長、空港に向かっているようです。二人とも旅行鞄を持っていますからどっかに行くんじゃあないでしょうか)と言い、その後、(やっぱり羽田空港でした。千歳行きのチケットを買いました)と言う。

季節は9月下旬。東京は残暑の厳しい日で、調査員二人も軽装だった。特に、チーフの小川は(確かTシャツだったな)と思い、僕は(小川、お前金を持っているか)と聞くと、(無いです)との応え。(じゃあ山本は?)と聞くと、(持ってないようです。カードはあるみたいです)と言う。僕は常々、探偵たるもの常時東京から一番遠くに行けるお金を持っておかなければならない。と指導しているのだが、若い調査員には効果が無かったらしい。特に、給料前ならなおさらだ。

(分かった。今日中にお前の口座に振り込むからカードでチケットを買って、一緒に乗ってくれ。それから、そんな格好じゃあ寒いからジャンパーかセーターも買うように)指示して、尾行を継続させた。--------